三浦綾子『夕あり朝あり』
私は以前読んだことのあるこの本を、今もう一度読みたくなり読んでいます。少し紹介したいと思います。
この本は、クリーニングの「白洋舎」を創立した、五十嵐健治の伝記小説です。主人公の健治は生後8ヶ月で生母と別れ、5歳で養子となった。養家は経済的に貧しく、健治は田中平八こと“天下の糸平”(長野県伊那の出身で横浜・東京で事業に成功した人)を目標に一攫千金を夢見て16歳で家を出た。
日清戦争(明治27年)の軍夫、北海道の監獄部屋(タコ部屋)暮らし、三越百貨店の宮中係と波瀾万丈の道を歩んだ彼は、キリスト教に出会い、信仰に目覚め、人の垢を洗うクリーニング業に辿り着く。
日本初のドライクリーニングの開発。戦時中の宗教弾圧との闘いなど。キリスト教の熱烈な信仰に貫かれた。クリーニング「白洋舎」創業者、五十嵐健治の生涯がまるで子供の時からそばで見つめていたかのように自然な語り口で書かれている本である。
昭和47年(1972年)96歳で天に召されるまで、キリスト教信仰を貫き、晩年彼は訪ねてきた人の名前を忘れることがあったらしいが、そんな時いつも彼は
「何もかも忘れましたが、キリストさまのことだけは忘れておりません。」
と言っていたそうです。
以上ですが「感動を与える本」として、まだお読みでない方に是非ともお薦めしたいと思い、紹介させていただきました。
(E)
※変種註
軍夫=軍隊に属して雑役をする人。また、兵卒のこと。
監獄部屋=《監視が厳しく待遇がひどかったところから》明治以降、道路工事・鉄道工事・鉱山労働などに従事する労働者を収容した宿舎をいった語。タコ部屋。